平塚 浜大門通り新光会

「中秋蒲鉾店」4代目・中村彰伸さん

(1982年生まれ、神奈川県平塚市出身)

創業100周年を向かえて

創業からの経緯

 私は中秋蒲鉾店の四代目です。曾祖父が大正12年に創業しました。食べることが大好きで、 食に関する商売をしたいと思い店を始めたと聞いています。何度食べても飽ない練り物を目指して研究や努力をした結果、 百年続いたのだと思います。今では平塚市民のソウルフードとも言ってもらえることもあります。
 曾祖父から祖父母に受け継がれ、四代目の私に至っています。実は私は最初から四代目のなると決めていたわけ ではありませんでした。

私自身のこと

 高校を卒業した私はラガーマンを目指し、京都の大学へ進学しました。4年間ラグビーしながら自分の人生につ いて思い悩んでいました。結果ラグビーとは関係ない仕事を選び、森永乳業で牛乳販売店やスーパーへの営業を担 当し四年半の経験を積みました。見積もりやプレゼンのスキルを学ぶことができ、スーパーへの納入も多い今の仕 事に大いに役立つこととなりました。

 2010 年に店を引き継ぐために帰郷、久しぶりの店は子供の頃から何も変わっていませんでした。私はまず、従 業員の信頼を得るためにともかく一生懸命働きました。皆さんに認めてもらえるようになってからは、自分で商品 開発や工夫をし始めました。スーパーへの出店や催事などの営業もスキルを活かして活動することができました。

 しかし、私が思う以上に練り物屋という業界は厳しいものでした。大手企業や小田原などの有名蒲鉾店も多く、 家族経営の中小規模の店は少なく、さらに東京や神奈川では同じような商品が多くて差別化が難しいことが分かり ました。日々試行錯誤する中、静岡などでは黒はんぺんなどが人気だということで、自分の店に合うものは真似さ せてもらったりもしましたが、やはり子ども達が美味しく食べてくれるような商品やお酒のおつまみに合う商品な どもっともっと工夫しなければならないと痛感し、研究の日々が続いています。

お店について

 工場の職人は弟たちを含め5人です。販売は母とパートさんで切り盛りしています。母は長い間とても頑張って 店を盛り立ててくれています。
 製造は朝2時過ぎから始まります。スーパーや催事に出店する商品の製造を進め、配送担当が来る前に仕上げます。 その後、店売りの商品を9時のオープンに向けて製造します。

 中秋ではその日の売れる分だけ製造し、保存料は使用せず、安全で美味しいものをお客様に提供することを心掛 けています。
 催事は毎週、金曜・土曜で出店しています。広告宣伝も少しずつ力を入れています。ホームページやお歳暮、 お中元時にはチラシも配ります。

 将来的には売上を伸ばして、もう一、二店舗ぐらい増やしたいですね。 手作りにこだわったねりものをもっと多くの人に食べてもらいたいのです。

商店街や若手事業者の会

 浜大門通りの商店街会長をしています。様々な業種、年齢差を超えての仲間です。夜飲みに行ったりして話すこ とで打ち解けます。私が一番年下なのに「おまえがそうしたいのなら」と言ってくれるのです。みんなこの浜大門 通りを良くしたいと思っています。
 行政の方やアドバイザーの方の協力も得てイベントなどの事業を開催しています。終えてみると商店街の通りが 良くなったと感じます。

 若手事業者の会「平塚あきんど塾」にも参加しています。あきんど塾とは、平塚の商店街で働く若者たちが 集まって、お互いに刺激を与え合ったり、学び合ったりする場です。
 私があきんど塾に入ったきっかけは、鳥仲さん(鶏肉・惣菜)との再会です。鳥仲さんは、昔の自宅の近所で子 供の頃からお世話になっている方です。私が平塚に帰ってきた時に、商人に誰も知り合いがいなかったので鳥仲さ んに挨拶に行ったら、あきんど塾に誘ってくれました。あきんど塾のメンバーは、前向きで勉強熱心な人が多くて、 私も刺激を受けています。
 あきんど塾の活動を通して、神奈川大学の先生や学生とも交流する機会がありました。先生や学生は私の店に来 て、イベントを手伝ってくれたりアンケートを取ってくれたりしました。彼らは消費者や若者の目線で、お店の改 善点や魅力を教えてくれました。
 特に印象的だったのは、平塚に住んでいる大学生が描いてくれた私のお店のイラストです。とても素敵で、催事 で出店している平塚ららぽーとのイトーヨーカ堂店に飾っています。大学生も大変喜んでくれて私にとって良い出 会いとなりました。今でもお店に顔を出してくれます。

 話はかわりますが、浜大門通りで毎年数回行っている「夕暮れ酒場」「昼飲み酒場」はあきんど塾から始まりました。 私が商店街会長になり、何から始めればいいのか困っている時に県商業担当者のアドバイスが、商店街が 盛り上がるきっかけづくりをしたらどうかという提案でした。あきんど塾のメンバーに出店協力してもらい第1回を開催し ました。それをきっかけに商店街メンバーが参加し、現在のイベントまでに発展したのです。すべて人と人のつながりが 良い効果を生み出しています。

お酒大好き

 私はお酒が好きで店を閉めるとほぼ毎日飲みにいきます。家で晩酌をするのではなく外で飲みます。外で飲むこ とで色々な出会いがあります。サラリーマン、お店の店主、ママさん、定年されたお父さんなどたくさんの方とお 話ができます。お酒を飲みながら本音で話す事で人それぞれの考え方や自分の知らない業界の事、自分の仕事の糧 になることがたくさん吸収できます。楽しいです。
 飲む分、歩くようにしています。歩くことで体を動かすし、美味しいお酒を楽しむためにも良いです。

お店を始める若者へのメッセージ

 一人でやるのは気楽ですが大変なことも多いですよ。でも何やっても大変だと思うので私は自分のやりたいこと をやっています。全ては人のつながりから始まると考えています。新しい出会いを大切にし、どう繋いでいくかで 人生が変わっていくのではないでしょうか。
 商店街の店舗の魅力はお客様をワクワクさせることだと思います。大型ショッピングモールでは味わえない雰囲 気やサービスをつくることです。それは店主や従業員の笑顔や会話、親身になっての商品対応など消費者の立場に 立って考えることだと思います。
 高齢でお店を閉める店主が多く、また自分でお店をはじめる人が少ない時代ですが、やりたいことがあるなら頑 張って仲間になってほしいです。